理念・政策・メッセージ
2026.07.11
「北アルプスの山小屋100年の歩み」
〜槍ヶ岳山荘100年、山の日10年、そして槍ヶ岳開山200年へ向けて〜
2026年7月4日、松本市内で開催された松本深志高校山岳部OB会(古幡開太郎会長)主催の公開講演会に参加しました。私は山岳部の出身ではありませんが、講師の槍ヶ岳観光株式会社社長・穗苅大輔氏とは、これまで山行をご一緒し、山岳環境整備について意見交換を重ねてきたご縁があります。そのため、今回の講演会はぜひ伺いたいと思い参加しました。
■ 北アルプスを支える老舗・槍ヶ岳観光開発株式会社
槍ヶ岳観光開発株式会社は、槍ヶ岳山荘、大天井ヒュッテ、岳沢小屋、殺生小屋、南岳小屋、槍沢ロッジの6つの山小屋を運営する、北アルプスを代表する山小屋組織です。槍沢ロッジは開設から109年、槍ヶ岳山荘は100年。日本の山岳文化と歴史を支えてきた、まさに「北アルプスの屋台骨」といえる存在です。穗苅大輔氏は4代目の社長で、ソフトバンクを途中退職し、3代目である父・穗苅康治氏の後を継ぎました。槍・穂高の山小屋群を一手に担う経営者としての視座は常に長期的で、私自身の政治活動にも多くの示唆をいただいてきました。
■ 講演内容のポイント
穗苅氏の講演は、山岳文化の歴史から現場の課題、未来の登山環境まで幅広く、非常に示唆に富むものでした。主な内容をまとめます。
@ 北アルプス開山の歴史
一般にはウォルター・ウェストンが北アルプスを見出したように語られるが、実際にはウェストンよりも64年も早い時期の1828年に播隆上人が槍ヶ岳を開山している。再来年は槍ヶ岳開山200年の節目を迎える。
A 山小屋創設期の歩荷の苦労
創設当時は歩荷が100キロを超える荷物を背負って山を登った。プロパンガスボンベまで担いでいたという話は、まさに驚愕。
B コロナ禍の経営危機と予約制の導入
密を避ける行動で登山客が激減し、山小屋は軒並み経営危機に。その後、予約制の導入で登山客の平準化が進んだが、多重予約など不心得に因る新たな課題も生まれている。
C 外国人登山者の急増
槍ヶ岳山荘だけで2025年は外国人登山客が3000人超。台湾・韓国が多く、アジア系が7割。各国の登山環境の違いから事故増加の懸念も。
D 「登山ゲート」の試行
横尾・栂池自然園で、登山届提出、装備点検、山岳保険加入確認などを行う「登山ゲート」を期間限定で設置。
E 気候変動による土砂流出の増加
十年に一度の規模だった土砂崩れが毎年のように発生。登山道付け替えなど山小屋の負担が増大。
F 山小屋建て替えの困難
資材高騰、ヘリ輸送費の増加、山小屋を建てられる職人不足。「山の上では平地の5倍の建設費がかかる」との実感。
G 過重な規制の適用
建築基準法・消防法・労働基準法が平地と同じ基準で山小屋に適用され、現実に合わない。山岳環境に即した規制体系が必要。
H 登山道整備の新たな枠組み
「北アルプス登山道等維持連絡協議会」が設置され、「北アルプストレイルプログラム」として登山道整備の在り方を検討中。入山料など新たな財源制度も議論されている。
I 日本鹿の増加と高山植物への影響
槍ヶ岳付近で日本鹿の目撃が増加。南アルプスでは鹿の侵入後10年で高山植物が食い尽くされた例もあり、早急な対策が必要。
■ 質問と穗苅氏の回答
全国山の日協議会副会長として私からは、「槍ヶ岳山荘開設100年、山の日制定10年、再来年の槍ヶ岳開山200年という節目を迎える中、登山環境整備基本法の制定を目指している。穗苅さんはどのような法整備を望むか」と質問しました。これに対し穗苅氏は、「山小屋運営に適用される規制の緩和。そのためにも、山小屋の法律上の定義を明確にしてほしい」と明確に答えられました。
■ 私の所感
山の日議員連盟を立ち上げ、「山の日」を国民の祝日にした法改正を行った立場として、また全国山の日協議会副会長として登山者の裾野拡大に取り組む者として、穗苅氏の指摘は極めて重要であると感じました。
山岳環境は今、大きな転換点を迎えています。外国人登山者の急増、気候変動、山小屋の老朽化、規制の過重適用――これらの課題に体系的に向き合うためにも、「登山環境整備基本法」の制定は不可欠です。今回の講演を通じて、その思いをさらに強くしました。
槍ヶ岳山荘100年、山の日制定10年、そして槍ヶ岳開山200年へ。日本の山岳文化は今、次の100年に向けた大きな岐路に立っています。山を愛するすべての人が、安全に、そして豊かに山と向き合える環境を整えるため、これからも政策の側からしっかりと取り組んでいきたいと思います。
