理念・政策・メッセージ
2026.02.26
「己のみを思えば、己を滅ぼす」
〜「七人の侍」とMAGAの岐路〜
米国のトランプ大統領が、連邦最高裁のトランプ関税が違法であるとの裁決により苦境に陥っています。更にエプスタイン疑惑でも追い詰められています。自分自身の利益や欲望を最大限重視する姿勢に厳しい反撃が加えられつつあるということだと認識しています。
この状況を見るにつけ、私は黒澤明監督の映画「七人の侍」の中で、島田勘兵衛(志村喬)は、村人と侍の不信が渦巻く中、「己のことのみを考えている者は、己をも滅ぼす」と諭すシーンを思い出しています。これは単なる道徳訓ではなく、力を持つ者ほど利己を抑制しなければ、共同体の防衛そのものが崩れるという、統治の原理でもあるのです。
個人の利己は本人の帰結にとどまります。しかし国家権力を握る者の利己は、国家の信頼を直撃することにつながります。トランプが掲げたMake America Great Again(MAGA)は「国益優先」を鮮明にしましたが、国益の定義が取引最大化や相対的優位の誇示へと傾くとき、同盟や規範という“村”の基盤は揺らぎます。また、ジェフリー・エプスタインとの関係をめぐる疑惑は、司法的確定とは別に、道義的信頼を蝕むとの批判を招いています。ウクライナ政策をめぐる取引的姿勢や、グリーンランド取得構想、関税を交渉圧力として用いる手法も、短期的な交渉力を示す一方で、同盟の結束や制度への信頼を摩耗させています。七人の侍の世界で言えば、「自分の家さえ守れればよい」という心理が防衛線を崩す構図に似ています。
アメリカの強さは軍事力だけではないのです。価値の共有、制度設計力、同盟への信頼――それらが織りなすネットワークこそが抑止の実体でした。指導者の言動がその網を緩め、破損すれば、外部勢力は分断を突いて来ます。結果として安全保障コストは増し、影響力は相対的に低下します。勘兵衛の警句は、力の誇示よりも連帯の維持を優先せよという、冷徹な生存戦略でもあるのです。
物語の終盤、勘兵衛は「勝ったのは百姓だ」と語っています。勝者とは優位に立つ者ではなく、共同体を存続させた者なのです。国家指導者の利己が拡張されるとき、その帰結は国家に跳ね返ります。現在、アメリカの立場は大きく損なわれていると言えます。いま問われているのは、優位の回復か、信頼の再建か。七人の侍の一場面は、超大国にも通じる普遍の岐路を照らしています。もう遅すぎるかも知れませんが、トランプ政権の全員にこの「七人の侍」を見て欲しいと願っています。
