「愛犬スーを家族に迎えて丸2年」
〜ペットが持つ社会を変える潜在力〜

 2023年7月から愛犬を飼い始め2025年7月で2年が経過しました。縁あって、生後3か月のシーズー犬との出会いがあり、妻が「スー」という名前を付け迎えました。幼犬から成犬に成長する過程で、餌やり、散歩、下の世話、健康状態のチェック、トリミングなどの役割が増え、家族の生活はそれまでとは一変しました。代議士を退任した今は、自由時間が飛躍的に増えた中で、スーの世話が自分自身の毎日の生活の基幹的な部分になっていることを実感します。しかしそれは、決して面倒とか苦痛とか形容されるものではなく、私自身が世話をしなければ命の危険が生じる愛犬にとって、私の存在意義が絶対的に重要であることという事実からの責任感に裏図けられた生き甲斐とも言う気持なのです。

 最近、近所の柴犬の姿が急に見えなくなりました。聞けば、老犬の柴犬は、この数年癌を患い、手術は諦め残された日々を静かに過ごしていたとのこと。最後の2週間は老夫婦が介護を行い、老婦人の腕に懐かれながら静かに息を引き取ったのだそうです。我が家のスーとも友達だったその柴犬の最後の日々を老夫婦から伺い、最後まで愛情を注ぎ込み責任をもって面倒を見切ったことに老夫婦はホッとした表情を浮かべていました。しかし、年齢的なこともあり、新たに犬を飼うことは控えると言っていました。

 老夫婦にとっては、犬を飼うことは生活のリズムであり、生き甲斐であり、精神的な満足度が非常に高いと感じられました。東京都健康長寿医療センターの調査によれば、犬を飼う高齢者は認知症の発症リスクが約4割、フレイルのリスクが約2割低いのだそうです。犬や猫などのペットの飼い主の介護保険利用サービス利用費は、飼っていない人の約半分なのだそうです。この調査は、元気だからペットを飼えるのか、ペットを飼っているから元気なのか、その因果関係はなかなか判断できないところですが、少なくとも、ペットを飼う気持ちとその効果で精神的な支えができることは実感できるところです。

 少子化の進む現在の日本では、2024年の犬と猫の飼育数は約1595万匹と、15歳未満の子供の数約1383万人を遥かに凌ぐ数となっています。日本では、ペットの方が、子どもの数よりも多いのです。このような中で、ペットが社会に与える影響、効果について、正面から見据える必要があるかもしれません。国際学会誌に発表された英国の研究では、犬や猫の飼育は人の心身の健康や幸福(ウェルビーイング)にプラスの効果を与え、何と結婚と同等の価値があるとの指摘がなされているのだそうです。ペットを飼うことで結婚に代替されては少子化がさらに進み、困りますが、現代社会におけるペットの役割の大きさを物語る指摘であることは理解できます。

 私自身、ペットを飼って意識したこととして、犬という切り口を通じて世の中の方々の感情、ものの見方、ペットをめぐる社会の現状への理解が進んだということです。特に年配者が寂しさを共有してくれる家族の一員として位置付けていること、家族の関係の緩衝役として和やかな家庭をつくるきっかけとなること、ペット業界が大きな市場として成長してきていること、アニマルウェルフェアに対する意識が急速に高まっていること、ペットを虐める様々な行動に対して激しい反発が生じること、ホテルなどの公共空間にペット同伴の道を広げることに対する期待感が強いこと、ペットをホテルに同伴できない観光客の為にホテルの近くにペットホテルが開業し盛況であること、家の近くにドッグランがあって欲しいとの要望があること、災害時にペット取り扱いをしっかりと決めておくことに対する需要があること、獣医がペット業界に流れ家畜対応の獣医が不足する状況への懸念があること、人々の中には犬が苦手な人も相当数存在するということ、などの幅広い課題に触れる機会が増えています。

 ペット飼育を通じて社会の絆を強くしようという動きもあります。私も複数のペット愛好者のSNSに参加していますが、飼い主のペット飼育に対する意識の高さと自分のペットに寄せる愛情の深さには驚きを感じます。松本市内では「わんわんパトロール」という仕組みを愛犬家の松林さんが作り、犬の散歩を通じて地域の見守り、パトロールを継続しているコミュニティー活動もあります。また、ハリウッド映画では、愛犬が惨殺された怒りで犯人のマフィアに復讐するキアヌ・リーブス主演の作品を飛行機の中で観ましたが、ペットに寄せる愛情の深さからすれば、むべなるかなとも思いました。

 2025年の7月で我が家の「スー」を家族に迎えて丸2年になりました。成長の早いスーとの同伴生活が今後どのように展開していくか、楽しみです。私自身の経験を通じて、ひょっとしたら社会を変える潜在力を持つペットの位置づけを認識させる機会を与えてくれた、スー、ありがとう。

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