「集乳車に同乗する」

 内閣府政務官の担務として規制改革推進会議を所管し、生乳の指定団体制度が議論の俎上に上がっていた。この問題については、私自身も規制改革推進会議の議論に陪席するとともに、自民党内の議論、各地域の酪農関係者のヒアリング、地元の酪農家からも話を聞いてきた。しかし、現実に酪農家から生乳を集め発送する集送乳の現場を見たことがなかったので、暮れの週末、地元酪農関係者に依頼し、松本市内と安曇野市内の酪農家を集乳車で巡るコースに同乗させて頂いた。

 頭の中で描いていた生乳の収集作業は、予想以上に大変な作業であった。集乳車は、点在する酪農家を一軒一軒回り、各酪農家の畜舎のタンクに集められている生乳を車載タンクに吸引して廻る。その際に、生乳に異常がないか、品質が安定しているかを検査機材でチェックする。各酪農家の生乳を同じ車載タンクに集めるので、一軒でも酪農家の生乳に異常があると全部がお釈迦になるので、チェックは細心である。牛が打撲により生乳に血が混じっていたりすることもありうるので、目視も大事である。畜舎には血が混じっていないかをチェックする赤外線センサーも備えられている。万が一、品質の悪い生乳が混じり、集めた生乳が使えなくなった場合の原因となった酪農家を特定するために、各戸ごとに生乳のサンプルが採られている。集乳車は、全ての酪農家を訪問し終わった後に、契約するミルクメーカーに赴き、そこで再度のチェックを受け、次のコースに向かう。衛生管理と品質管理が非常に厳密であることを思い知った次第である。

 こうした活動のシステムは、生乳指定団体が全体統括し、乳代のプール化、集送乳経費のプール化、乳質検査の一元化、乳質による格差清算制度導入による一元的乳質改善などを仕切っているのである。

 私が同乗した集乳車は、朝から夕方まで一日9時間ほど動き回るのだそうだ。乳牛は、乳を毎日搾らないと体調を崩す。そのために一年中休みなく集乳することが求められる。酪農家も、集めた生乳は、温度管理が不可欠で、停電などがあるとたちまち苦境に陥る。しかし零細な酪農家には、通常、非常用電源は配備されていない。

 集乳車の立場から言えば、酪農家はある程度集約されれば有難いとのことだが、酪農家が生産する堆肥は、その地域の肥料としてたいへん有用で、資源の循環という観点からは、点在する意味もあるということである。以前、酪農を開業するときに、地域の水田農家が環境悪化を理由に大反対をしたことがあったのだそうだが、実際には、稲わらを使ってくれ、それが堆肥として再利用されることを学習し、今では農業地帯にとって欠くことのできない存在になっている。との声も伺った。一方で近隣の宅地化が進むにつれ、事情が変わってきているとの話も伺った。どうしても畜舎の臭いが残り、新住民の皆様からは廃業を強く迫られるというプレッシャーもあるとのことである。

 家族の重労働で、なかなか作業現場を離れられないというハンディを緩和するための酪農ヘルパーの仕組みは好評のようである。最新式の搾乳用パーラーという仕組みは、搾乳機材が牛の乳房を探り、自動で搾乳を始めるという優れものであるとの説明も受けた。欧州では、ICT、IoTを活用し酪農作業の自動化、データの蓄積・分析を進めるスマート酪農といわれる取り組みが注目されているようである。

 専門家に解説を受けながら現場を歩くことで、これまで気が付かなかった世界が見えてくる思いがした。規制改革推進会議で生乳指定団体制度が俎上に載ったおかげで、また一つ新たな課題を勉強させていただいたことに感謝したい。もちろん私の仕事は、学習の成果を生かし、問題解決に動くことである。


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