「松本東京間を往復する同級生の親孝行」

 頻繁に松本と東京を往復する中で、旧友との列車の中での出会い、再会は得難い機会である。

 先日、あずさの車内で高校同期の数十年ぶりの再会を果たした。同じく還暦を迎えたT氏は、東大の工学部を卒業後、日本を代表する電機メーカーに入社し半導体開発に携わった後、意を決して東大医学部に入学し直し、今は、都内の病院で内科医を務めているとのことであった。人生の多くの時間を勉強と研究に費やしたのか、今日まで独身を続けているとのことであった。

 彼が東京と松本を往復する理由は、年老いた両親の面倒を見るためだという。父親が93歳、母親が87歳で、自宅で二人で頑張っているとのこと。それでも高齢のため、週末はできるだけ実家に戻り、両親の身の回りのことを見ているのだという。両親の楽しみは、医師の息子に体の不調を見てもらい、近くの浅間温泉で家族風呂を借り切り、3人で風呂に入ることなのだそうだ。

 T君によると、裸の両親の体を見ていると、どこに変調をきたしているのかわかるのだそうだ。一人息子のT君にとって、親の面倒を見るのは自分しかいない、その孝行がいつまで続けられるのか、という思いを胸に、一日一日を大事にしているのだそうだ。

 我々高校同期も還暦を迎え、そろそろ現役の第一線から退く人も出ている。しかし、体力、気力、経験などは、まだまだ世間に通用する人が多々いる。

 私から、T君に、「この際親の面倒を見るということもあり、病院勤務を地元に切り替える、ないしは週何日かの地元勤務を考えたらどうか」と水を向けてみた。T君の脳裏にもそういうアイデアはひらめいているようであった。

 多くの俊英が地元の高校から都会の大学に進学し、そのまま帰って来ずに老親が晩期高齢の時期を迎え、対応に苦慮している。そういう多くの人に、かけがいのない両親との残された時間を共有し、その最後をしっかりと看取ることができる、暮らし方の新たな模索を制度としても考えなければならないと、現役世代の地方移住の促進を目下の仕事としている内閣府政務官として心に誓った。


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