「児童養護施設入所児童と「こども手当」」

〜児童虐待・育児放棄の親に手当が行く現実〜

 過日、松本市内の児童養護施設を訪問した。岩田滝彦園長さんから施設運営の課題を聞く機会を得た。虐待児童、経済的理由、養育上の理由(保護者の精神不安定)などの入所事由による44名の児童を受け入れている養護施設である。

 この施設のユニークなところは、地区の民生・児童委員が施設の設置運営を行い、委員の各々が各1万円を拠出しファンドを作り、施設改築の支援をしているところである。施設は2500万円の積み立てがあり、比較的恵まれた財政環境にあるとの話であった。

 園長先生からは、入所により子供の気持ちが安定すると急速に学力が伸びる子も多いとの話を伺った。そして、集団生活の中で家に帰る子がいると、それを見て自分を虐待した親でも美化し始める傾向があり、実際に家に戻ってみて親の実態とのギャップを再認識し、また悩むという繰り返しを感じることがあるという。最近では、韓国、北朝鮮、中国、タイ、フィリピンといった外国籍の子供も増えており、国際化の影響も受けている実態を伺った。

 卒園の時点で、地元企業が受け入れてくれる余地が少なく、地域社会の偏見が依然としてあるという実態も聞いた。幼少の子供を除き、中学生以上の子供は、入所してから高校卒業まで施設におり、施設から直接社会に巣立つケースが殆どであるとのことである。

 卒園の際に、アパートを借り、家財道具を用意し、車を確保するといった点で、初期費用が必要となるが、アルバイトでそれを確保するのはなかなか大変の様子とのこと。

 また、最近「こども手当」が導入されたが、この児童養護施設で子供手当を受けている子供は一人しかいないとのことであった。それは両親がいない子供。「親がいる子供は、虐待や育児放棄をした親も含めてこども手当は親のところに行くのです」、との園長先生の嘆息。「せめて子供手当を子供たちの為に貯金し、子供たちが自立する際の一時金として活用できればありがたいのですが」、と園長先生。

 こども手当の財源を捻出するために、現物給付の社会福祉サービスの財源が削られたという認識を園長先生は現場感覚で持っておられる。こども手当が、当の子供ではなく親のところに行くことについて趣旨が違うのではないかと問われたので、私からは、「いや、民主党は、こども手当を選挙戦術の為に使ったのです。衆議院選挙の直前に唐突にマニフェストに掲げ、子供を持つ親に金が回るようにしたのです。公費を活用した買収ともいえます。ですから、民主党にとっては思惑通りのこども手当の実態なのです」と申し上げた。

 しっかりと事務的に練り上げた施策ではなく、選挙目当てで付け焼刃で作り上げたマニフェスト施策について、菅直人総理は7月22日の予算委員会で、「十分な財源捻出が出来なかった」と認め、マニフェストが砂上の楼閣であったことを認め、謝罪した。無駄を排除すれば16兆8千億円もの財源が確保できるという選挙公約がいかに現実離れしていたかを政権発足後2年にしてようやく認めた。

 マニフェストを「政権をとったら実現する施策」として位置付けづけるのではなく、「政権をとるための手段」として捉えた民主党政権の政権交代の正統性の大前提が崩れている。その矛盾の一局面を、松本市内の児童養護施設の現場で図らずも直面させられた。

 政治の機能とは、選挙を意識し、闇雲に金配りをすることではなく、真に社会福祉サービスの必要のあるところに、必要な財源配分が行われることが今こそ求められている。


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