「電力供給の品質確保と再生可能エネルギー」

 電力会社勤務の電気技師の友人が、これまで日本の電力会社が供給してきた電力の品質は世界最高水準であり、また停電が少なく世界一の信頼度を得てきた、と過日語っていた。

 私が、その友人に再生可能エネルギーの導入について電気技術者の視点からのコメントを求めた際の返事である。

 再生可能エネルギーは、当然のことながら自然条件に左右される。風力は風の強さ、太陽光は晴れているか否か、小規模水力は水が安定的に流れるか、などである。周波数と電圧の安定度が電力の品質を左右するのだそうだ。例えば、モーターが周波数の変動で回転数が変わってしまうと工場の生産に大きな支障が生じる。これまで日本の電力会社は変動する電力需要に合わせて、比較的調整が容易な火力発電所の出力をコントロールすることでその安定度を高め、品質を保ってきたということなのである。

 再生可能エネルギーが大きな割合を占めると、この電力の品質を保つ技術を高めなくてはならない。大きく変動する電力需要に加え、電力供給側も出力に大きなばらつきが生じるシステムが今のシステムにとって代わることのリスクとそれをカバーする技術的可能性についても、その実現可能性をよく検討しなくてはならないということになる。

 普段から余剰電力を蓄電する手法により簡単に解決が可能なのか、こうした方面の技術に疎い私にはよく分からないが、少なくとも、再生可能エネルギーの発電設備投資に加え、蓄電装置の投資が別途必要になり、そのコストは電気代として全国の家庭や事業所に転嫁されて行くことになる。

 福島第一原発事故で、よきにつけあしきにつけ、全国の原発は少なくともこの十数年内には廃炉を余儀なくされる可能性が高い。その場合、原発廃炉というマイナスの投資コストは膨大である。

 一方で、ただでさえ高価な日本の電力料金。これ以上の電力料金水準の高騰は、生産拠点の海外移転を促進する懸念が指摘されている。皮肉なことに、日本の企業は、原子力発電により安い電力が豊富な開発途上国に移転していくのである。

 仮に日本が脱原発を目指すのであれば、それは地球規模での脱原発を目指さないと、自ら国際競争力を弱めるという、矛盾だらけの「一国平和主義」の陥穽に陥ることになりかねない。一人だけやせ我慢して、そして日本全体が貧乏になってしまう。

 日本が再生可能エネルギー立国を目指すのであれば、そのグローバル展開を見据えた戦略的思考が求められる。政権延命のために、突如、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の制度化を、政局を睨んだ対立法案として提示するような発想でこの大課題に臨んではならない。


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