「社会衰退の兆候の特徴」

 旧知の須坂市の三木正夫市長が、ご自身のメルマガの中で、歴史家のアーノルド・J・トインビーの言葉を紹介されている。

 トインビーは、「社会が衰退していくときに共通して現れる5条件」として、

(1)国民の心にエゴイズムが生じる。
(2)国民が自立心を失う。
(3)指導者が大衆迎合を始める。
(4)若者の指導を怠るようになる。
(5)幸せを金や物の量ではかるようになる。

ということを言っている、と。

 調べてみると、これはトインビー先生の「歴史の研究」の中での記述の由。この本は、大著であり一朝一夕には読めないが、そのエッセンスは「試練に立つ文明」という本の中に書かれている。私は以前、ハンチントン教授の「文明の衝突」という本を読んだことがあるが、ハンチントン教授もそのトインビーの弟子なのだそうだ。

 ところで、

(1)「国民の心にエゴイズムが生じる」

現代の世相はその傾向が確かに強い。

(2)「国民が自立心を失う」

国や自治体頼みの風潮が目立つ。何でも他人にせいにする風潮も。

(3)「指導者が大衆迎合を始める」

与野党を問わず、選挙目当ての迎合的政策群の多用も確かにある。

(4)「若者の指導を怠るようになる」

教育力・学力の低下、若者に誰も注意をしない風潮は確かにある。

(5)「幸せを金や物の量ではかるようになる」

高給外資系企業に群がる東大生。地方都市や農山村の医師不足。

 といった当てはめをしてみると、日本にも心配な風潮が目立っているように思われる。トインビー先生は、文明は外からの力や技術革新ではなくむしろ内部要因によって衰退する、と喝破しているが、そうならないために、我々に何が出来るか考えてゆきたい。50歳を過ぎ、若い世代に対して何を伝えていくべきか考えたい気分になっている。

 ところで、当の三木須坂市長は、あるエピソードを紹介されている。それは、ある会合で須坂市民の方から「行政無線がよく聞こえない」というお話があり、とっさに「屋外スピーカーを設置してほしい」との要望かと思ったところ、その人は、「屋外スピーカーを設置するのは費用がかかるので、防災ラジオを有償で配布してはどうか」という提案をしたのだそうだ。

 信州人の矜持はまだ衰退してはいないのだ。

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