「最低賃金全国一元化を目指す理由」
〜若者を地方に・国土政策としての意義〜

 私たち自民党国会議員の有志で、2019年2月に『自由民主党最低賃金一元化推進議員連盟』を発足させ、デフレからの完全脱却、東京一極集中の是正等、我が国が直面している労働、経済及び社会上の課題を乗り切るためには、全国一律の最低賃金制度を検討し、実現することを目指すべきだとの議論を進めてきています。安倍政権の下で、最低賃金は2016年以降4年連続で3%程度の引上げを実現してきた結果、2019年の全国加重平均は901円となり、東京都及び神奈川県では初めて1,000円を超えました。しかし2020年に入ると、新型コロナウイルス感染症が世界で流行し、我が国の経済・社会にも大きな影響を及ぼすこととなりました。そのような中、2020年7月、『中央最低賃金審議会』は、「引上げ額の目安を示すことは困難であり、現行水準を維持することが適当」とする異例の公益委員見解を提示することとなりました。その結果、2020年の最低賃金額は、全都道府県が据え置きから3円までの引上げにとどまり、全国加重平均もわずか1円の上昇となり、このところの最低賃金の引き上げの機運は萎みました。

 当議員連盟としては、生産性とは賃金水準そのものであり、賃金が上がらなければ将来の社会保障も支えられず、賃金を上げないということは社会保障を維持できなくなると言っていることと同義であるという認識に立ち、今回のコロナ禍の厳しい状況にあっても、将来を見通し、最低賃金の水準を少しでも上げることに取り組むべきとの緊急提言をすでに2020年6月に行っていましたが、かねてより活力ある地方を創るための最低賃金の全国的な引上げを主張してきた菅義偉新総理が、政権発足後初めての予算編成に当たっている今の時点で、当議員連盟の考え方を改めて示すべきだとの考え方の下に再度提言をまとめ、2020年の年末に菅総理に直接手渡しました。

 菅総理からはその内容について同感であり何とか実現していきたいとの気持ちが示され、我々としては今後の展開に希望を持ったところです。この提言は、2020年の年末以降、弁護士会や労働組合の勉強会でも説明していますが、多くの皆様に最低賃金の一元化を目指す意義を知ってもらいたいとの考えから、その内容をお伝えしたいと考え、以下にそれを示すこととしたいと思います。

最低賃金の在り方に関する提言

1,我が国の最低賃金の額は主要国の中では低い水準にある。加えて、最低賃金の地域間格差は解消されることなく、最低額の7県の792円と最高額の東京都の1,013円とでは、額にして221円の差がある。最低額の最高額に対する割合をみると78.1%であり、その差はいまだに大きい。諸外国を見れば、現在全国一律の最低賃金を定めていない国はごく少数であり、G7参加国に限れば日本とカナダだけである。

2,国の経済の実力であるGDPは生産性×人口で決まってくるのであり、我が国では人口が急速に減りつつある中で生産性を高めなければ将来の医療や年金の原資を確保できず、社会保障の水準を維持できなくなってしまう。

3,コロナ禍にあっても英国が2020年4月から最低賃金を更に6.22%引き上げた政策意図を読み解くべきである。(英国ではは2016年以降、25歳以上のフルタイムの労働者を対象とする最低賃金(NLW)を、2020年に賃金の中央値の6割相当額に引き上げる目標が掲げられているが、2020年もこの目標に沿った引上げが中断されることなく実行されたことになる。)

4,マクロ経済の理論に、労働移動が自由な地域では通貨は単一であることが最も望ましいという「単一通貨圏の理論」があるが、賃金も同じ理論が当てはまる。賃金の水準が異なる、労働移動で調整が行われ、特に交通が至便な我が国では賃金の高い東京に一極集中することになるのは当然の帰結である。経済理論としても最低賃金の全国一律化は適当なものと考えられる。

5,今の時代に政府が若者の都会への集中を促進する政策を取ることには大きな批判が寄せられていることを考えると、全国一律の最低賃金は政策理論としても適切なものと考えられる。実際に、2019年における都道府県ごとの15歳から29歳の転入超過率がプラスなのは、東京都、神奈川県、埼玉県、大阪府、千葉県の6都府県のみであるが、都道府県ごとの転入超過率と最低賃金額とは高い相関関係を示している(全年齢では関係数0.780、15〜29歳では相関係数は0.872)。

6,新型コロナウイルス感染症の蔓延を受け、地方での就業を希望する人も増えている。都会から地方に若者が移住を考える際に、地方の最低賃金が低く、所得が大きく減るということになれば、せっかくの移住の意思を挫くことにもなりかねない。そのような意味では、国土構造のあり方として、若者を地方に分散させることで東京一極集中を是正する観点からも、全国一律最低賃金は不可欠な政策である。

7,他方で、全国一律の最低賃金を採った場合、地方の中小企業をはじめ雇用者がその負担に耐えられるかという点は解決すべき重要な課題である。現在、中小企業の賃金引上げ等生産性向上に向けた国の支援策として、業務改善助成金がある。これは事業所内最低賃金を一定以上引き上げ、設備投資等を行った場合に、その費用の一部を助成するものである。しかし、この助成の利用実績はやや低調にとどまっているほか、飲食や小売店舗販売等の労働では、設備投資が直ちに生産性向上につながる事例は限られると推測される。このため、賃金や社会保険料の支払いを直接助成する等の新しい助成の方策も、各国の事例も参考にしながら、今後の検討に値する。事業の公正な競争の確保という観点からは、下請け適正取引対策も重要と考えられる。特に、中小の事業者が労務コストを適正に価格に転嫁できる仕組みを整えることは不可欠である。

8,いずれにしても、事業者が、長期的な展望をもって賃金を上げることを可能にするためには、例えば10年程度の経過期間を設けて、安定的に継続する支援施策が必要である。その場合の財源については、例えば大企業の内部留保(利益剰余金)に注目することもあり得る。450兆円を超える内部留保に0.5%を毎年課税することで2兆2500億円の資金が捻出できるという試算もある。これを中小企業の支業の支援に充てるという対応策もあり得るのではないかという意見もあった。

9,こうした政策目標と対応策を議論するため、政府及び与党において検討の場を設定すべきである。全国を通じてデフレから抜け出るためには、最低賃金の引上げと全国一律化は切札とも言うべき政策であり、政府ならびに自民党の英断を期待する。特に厚生労働大臣には、『中央最低賃金審議会中央最低賃金審議会』に対し、都道府県別最低賃金制及び目安制度そのもののありかたについて諮問する等、根本的な制度の再検討へ踏み出すことを求める。

10,なお、当議員連盟では、全国一律の最低賃金制度を実現するための方策の検討及び最低賃金制度のあり方に関する総合的な検討を引き続き行っていくが、政府あるいは党内でも必要な議論を進めていただくよう重ねて要望する。

です。

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